DXとは、デジタルトランスフォーメーションの略称です。今から4年前にあたる2018年に、経済産業省から「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」が発表され、さまざまなメディアでもその内容が取り上げられました。
このレポートでは、経営面・人材面・技術面でのさまざまな課題を克服できない場合、DXが実現できないだけでなく、2025年以降では最大12兆円/年の経済損失が生じる可能性が指摘されました。
このような指摘を踏まえることはもちろん、将来の成長や競争力強化のためにも、自社のDX推進の必要性を理解している経営者はたくさん存在しています。そして、DXを実現するためのプロジェクトを実施している企業もあります。
しかし、そもそもDXという言葉の抽象度が高く、何を行えばDXと言えるのかについて認識合わせができていない場合も見受けられます。
今一度、自社におけるDXの定義や進め方を見直したい方もいるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、改めてDXとは何か?について解説したうえで、自社でDXを進めるために重要なポイントをご紹介します。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の意味
デジタルトランスフォーメーションの「トランスフォーメーション」は、「変容」という意味です。この変容が、単なるIT化の推進とは異なる点です。
参考までに、経済産業省から発行されている「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」でのDXは、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義されています。
現状の維持ではなく、顧客に提供する製品・サービスや、自社を構成する業務などを変革することがDXに含まれているのがポイントです。もちろん紙媒体などのアナログ資料をデジタル化したり、個別の業務をデジタル化したりすることも広い意味ではDXになりますが、これらがDXのすべてではありません。
【出典】
なお、DXに似た言葉として、CXやUXなどの類似ワードがありますが、これらはそれぞれ「Customer Experience(顧客体験)」や「User Experience(ユーザー体験)」の意味で使われていますので、DXとは異なる意味です。ただし、CXやUXの向上にはDXが不可欠になるという点では、関連性があります。
DXが求められる理由
DXが今求められている理由としては、主に3点挙げられます。
ひとつ目の理由は、製品・サービスのコモディティ化です。単にシステム導入を行ったり、AIなどの最先端技術を活用したりするだけでは、革新性に欠ける部分が大きく、同じような製品やサービスが出てくるため、個々の企業の競争力強化にはなりづらいのが実情です。特に近年はテクノロジーの進化が激しいので、現在は最新技術として認識されている技術でも、数年後は当たり前の存在になりがちです。テクノロジーをどう使うかのアイデアを出すのは人間であり、最終的な競争力強化の実現可否は、テクノロジーそのものではなく、経営層を含めた社員ひとりひとりの能力にも左右されます。
ふたつ目の理由は、消費者行動の変化です。どこでもインターネットを利用できるようになった結果、さまざまなチャネルで購買行動が起こるようになりました。また、マスマーケティングが主流だった昔よりも、消費者の好みや購買行動は多様化しています。そのため、よりひとりひとりの顧客に合った製品やサービスを提供することが企業に求められています。これを実現しようとすると、デジタルマーケティングの前提となる行動データの取得・分析や、分析結果に基づくオンライン・オフライン両方のマーケティング戦略策定・実行施策の検討を行うことでしょう。この点はCXでも求められています。
最後の理由は、今後の人口減少に伴う労働力不足です。冒頭でご紹介した経済産業省のDXレポートでは、2025年にはIT人材不足が約43万人まで拡大すると予測されており、特に先端IT人材の供給不足が課題に挙げられています。日本では、IT人材の7割がベンダー企業に属しており、ユーザー企業のIT部門などには3割しか人材がいないのが実態です。欧州の場合はユーザー企業とベンダー企業で半々程度の人材分布なので、日本ではベンダー企業側に人材が偏っているのがわかります。日本企業がDXを推進するためには、ベンダー企業を単なる外注先ではなくパートナー企業として捉えながら、人材不足の解消に努めることも不可欠になっています。
これらの理由から、DXへの取り組みは、経営層が自社の経営課題として認識するべきものであり、ビジネスモデルだけでなく組織や人材の問題を含め、全社横断的な変革が不可欠なものです。単にIT化を進めるだけでは充分ではなく、その先で目指す姿をDXと絡めて計画することが重要です。
DX成功パターンのフレームワーク
ここからは、経済産業省の「DXレポート2中間取りまとめ(概要)」(以下、資料)の内容を取り上げながら、DXの成功パターンを導くために必要な戦略やフレームワークをご紹介します。自社でDXを進めようとする際に、ぜひ参考にして頂ければと思います。
まず、DXの成功パターンには、DXに向けた戦略の立案や展開の前提となる組織戦略、事業戦略、推進戦略の3つが含まれていると述べられています(資料P24抜粋)。
前述したとおり、DXには単なるIT化と異なる意味が込められているため、経営層や業務部門・システム部門でDXの方針に共通認識を持つことが必要です。共通認識をすり合わせるだけでも大きな労力がかかるかもしれませんが、この組織内対話を丁寧に行うことで事業戦略や推進戦略をスムーズに作ることができます。
そして、DXを事業戦略上どのように位置づけるか決めることも大切です。業務効率化やコスト削減など、いわゆる「守りのIT」だけでなく、浮いた投資余力を「攻めのIT」に充てることで新たな事業の創出ができれば、真のDXに近づく第一歩になります。
なお、DXを推進する際には、いきなり全社一律で取り組むのではなく、一部の重点部門を選んで試行してみてから、他部門への横展開を進めていく方がスムーズです前提となる戦略が策定されたあとは、下記のDXフレームワーク(資料P26抜粋)をもとに自社の製品やサービスに当てはめて、段階的なDXを実施してみてはいかがでしょうか。
デジタル化には段階があることは前述したとおりですが、並行してDX推進体制整備のための人材育成や人事制度のアップデート、働く環境の整備も必要です。
特にコロナ禍を経験した中では、リモートワークへの適応度合いはDXの進み具合とも密接に関係しています。最終的に製品やサービスを成り立たせるのは企業を構成する人材なので、人事制度やワークスタイルの変革も含めたDX推進を行うことが求められます。
DXに成功した企業の事例
最後に、DXに成功した企業の事例を複数ご紹介します。ぜひ参考にしてください。
事例1.三菱電機株式会社(業種:製造業)
「e-F@ctory」は、ビッグデータの活用でスマート工場を実現する仕組みです。工場設備IoTで製造現場起点の情報を取得し、エッジコンピューティングというデータ処理技術で処理することで、生産現場に近い場所にてリアルタイムにデータを分析・活用することができます。また、ITシステムと連携することで、エンジニアリングチェーンとサプライチェーンを俯瞰した分析も行うことができ、ものづくり全体の最適化が可能です。
(出典:三菱電機株式会社ウェブサイト「e-F@ctoryご紹介」より)
この取り組みの結果、三菱電機のFA機器分野と、ソフトウェアや機器類を提供するパートナー企業を連携するパートナープログラムである「e-F@ctory Alliance」が発足されました。これにより、生産現場の情報だけでなく、CADデータなどエンジニアリングチェーンのデータとの連携も可能になりました(参考資料:経済産業省「製造業DX取組事例集」P31)。
事例2.SMBCグループ(業種:金融業)
金融業はほかの業界に比べると比較的保守的ですが、メガバンクSMBCグループでは他行との差をつけるために効率性を追求し、IT活用を進めていました。
そして、2019年には単なるIT化ではなく、DX推進の一環として、弁護士ドットコムとともに合弁会社「SMBCクラウドサイン」を設立し、契約実務を中心とした企業活動のデジタル化を実現しました(参考:SMBCクラウドサイン10月1日始動)。
このサービスは、地銀の住宅ローンの完全オンライン化にも利用されています。ほかにも、コンビニ向けオンラインバーコード決済サービス「PAYSLE(ペイスル)」や、中堅・中小企業向けのデジタルプラットフォーム「プラリタウン」も展開しており、金融機能を活用しながら、金融サービスに限らない顧客への新しい価値を提供しています。
DXの本質は、デジタル技術を使った変容であり、単なる業務の電子化に留まらないさまざまな変革が含まれることをご理解頂けたでしょうか。
ご紹介した事例以外にも、さまざまな業界の企業がDXを進めています。会社の将来を担うDX推進を行うためには、小さく始めながら数年単位で全社的に展開できるよう、工夫しながらプロジェクトメンバーを選定することも大切です。
自社でのDX推進に課題がある場合は、外部の専門家の力を借りながら推進することも検討してみてはいかがでしょうか。株式会社ジェラルドでは、DX推進に関するご支援を行っていますので、お悩みの方はぜひ一度お問い合わせください。
<執筆者プロフィール>
執筆者:MMC Lab.茂木美早穂
総合系コンサルティングファームにて、システム導入プロジェクトPMO支援、官公庁・民間向け受託調査案件等に従事。現在はフリーのリサーチャー・ライターとしてさまざまな案件を担当しながら、上場企業のBtoBマーケターも担う。職業作曲家・アーティストとしての顔も持つ。
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